自殺指南
夕焼けに染まった教室
赤い髪、茶色い目で細身の美少年、
赤谷レンは薬を手にして、それを一気にペットボトルの水で飲み込もうとした。死ぬために。
それを止めたのは黒パーカーにジーパン姿の
おそらく、声の高さから女だと思われる不気味なシニガミだった。
「ちょっと待て!たった4錠の栄養サプリじゃ死ねねぇぞ!!!!」
「だれ!?」驚いたレンが聞くと、ガイコツのお面を被った不審者は言った「俺はシニガミ。失敗しそうな自殺をする奴を完璧に死なせるために来た。」
「完璧に死なせるために・・・?」
「そうだ。それだけの栄養サプリじゃ死ねない。死ぬならオーバードーズじゃなくて首吊りがおすすめだ。明日放課後の教室で会おう。
完璧な死に方を指南してやる。」
そう言うとシニガミは教室から消えた。
「え?明日まで生きなきゃなの?」
翌日、赤谷レンは憂鬱そうに登校し、いつものようにシンジとコウダイに机を囲まれ、「死ねよ」「赤谷の机に触るなよ!赤谷菌が移る!」と罵声を浴びせられた。
昨日は男子トイレで2人にボコボコに殴られた。
生きてる意味あるのかと悩む退屈な日常やこのような罵声が嫌で死のうとしたのに、寿命を引き伸ばされた。
本当に今日シニガミは来るのだろうか。
放課後、だれもいない教室に残ったレンのもとに、約束通りシニガミが来た。
「レン、今日ロープを買って来た。お前の家に向かう。」
「ちょっと待って!知らない人家にあげるの怖い気がするし、ていうか、理由とか聞かなくて良いの!?」
「死にたくないのか?俺は自殺を成功させてほしいからやっているだけで、理由はどうでもいい。生きるのか?死ぬのか?どっちかにしろ。」
「死にたいけど・・・」
「なら家につれていけ。そこで教えてやる。」
不気味な姿のままのシニガミと街を歩くのは恥ずかしかった。周りの人がジロジロ見てくる。
それでもなんとか家に着いた。
運良く両親は仕事から帰ってきていなかった。
「家にあげてしまった・・・」
自分の部屋でシニガミがロープを手に持ち、
僕に渡してきた。
「これをドアノブに縛ってつけろ。」
「わかった。」
言われた通りロープをドアノブにつけた。
続けて、椅子をドアの下に持って行き、縛ったあまりの長いところをドアの上から垂らすよう言われ、それを垂らした。
「輪を作れば完成だ。ちゃんと首が入るように作れよ。」
「うん・・・」
輪を作り終わり、後は首に輪をかけて、イスを倒すだけ。なのに・・・
なのになんで怖いんだ!!!
「後は首に輪をかけるだけだぞ。やらないのか?」
「いっ今やるよ!」
しかし時間が経てば立つほど怖くなり、心臓がバクバクしてくる。
「君はやればできる!さあ、やるんだ!」
「うっうるさいな!怖くはないからな!!」
「怖いんだろ?」
「え?」
シニガミに見透かされた。
「怖い気持ち、わかるよ。だが、別に作戦がある。大丈夫、きっと死ねる。」
そう言ってシニガミは地図を差し出した。
自殺の名所である森に行く地図だ。
「この場所はここから遠い。お金もかかる。後に引けなくさせるんだ。明日一緒に行こう。」
次の日は土曜日だった。シニガミとバスに揺られ、森に向かう。
「あの、シニガミさん・・・本当に僕は死ねるんでしょうか?」
「大丈夫だ。ほら、遊園地が見えてきた。もうすぐ森に着く。」
「遊園地・・・?」
遊園地・・・両親と一緒に来た、思い出の場所。僕が死んだら両親は悲しむだろうな・・・でもかまわない。死ぬのに周りなんて考えていられない。でも、あと1回くらい遊園地行きたかったな・・・。
「遊園地寄るか?」
「え?」
「死んだら寄れないぞ?」
「寄っていいの?」
「もちろん。」
森の駅で降りるはずが、その前の遊園地の駅で降りてしまった。
「よし!ジェットコースター乗るぞ!」
「シニガミさん、やめてよ!僕怖いよ!」
「いいからいいから!」
シニガミにつられ、ジェットコースター乗り場へ向かう。
「申し訳ないのですが、安全のため、お面をとっていただけないですか?」
乗り場のお姉さんにシニガミが止められた。
「嫌だ!このまま乗る!!」
「取ればいいじゃん。」
「嫌だ!!!」
子供のようなシニガミの様子に、笑えてきた。
「では、乗れませんね。残念です。」とのお姉さんの言葉に「そんなぁーー!」と泣き叫ぶシニガミをみて、僕は思わず爆笑してしまった。
時を同じくして、シンジとコウダイの2人も遊園地に来ていた。そう、レンを罵倒したり殴ったりしていたいじめっこ2人だ。
「シンジ、ドクロの死神っていう人、知っているか?」
「だれ?」
「俺たちの住む街で一番強いヤンキーでな、ドクロの仮面かぶってて、3つの中学ボロボロにしたらしい。」
「マジ?それがどうしたって?」
「俺たちの中学に転校してきたらしいぜ。まだ会ったことないけど、怖いよなー。」
「へー。あれ?あいつ赤谷レンじゃね?からかってやろうぜ!」
「おもちゃ発見!」
2人が近づくと、そこには、ドクロのお面をかぶった人と、仲良さそうに話す、レンの姿があった。
「あのドクロってまさか・・・」
「赤谷レンって・・・」
顔を青ざめさせた2人は遊園地から帰ったのだった。
一方、赤谷レンとシニガミは遊園地を満喫していた。「さて、そろそろ行くか。」とシニガミ。
「やだ」
「え?」
「やっぱり死なない。生きる。」
「なぜ!?なぜだ!?」
「だってまた遊園地行きたいからさ。」
「気が変わるの早くないか?」
「ていうか、死ぬまでに知りたいことができちゃったんだ。」
「なんだ?」
「シニガミさんのこと!」
僕がそう言うと、シニガミさんの顔が赤くなった気がした。お面ごしだから気がするだけだけど。というか、会った時から謎めいていたけど、遊園地に興味ありそうな感じからさらに興味がわいた。
「これからも、一緒にいてくれる?」
「そっそばにいるだけなら・・・」とシニガミさん。
僕はシニガミさんのそばにいることにした。
ついでに、シニガミさんの自殺指南を邪魔する遊びを思いついた。